神無月の記
posted:2021.10.01
秋 火照る
朝起きた瞬間に肌を滑る空気が
ひやんとし始めた秋の頃
遠くに山の景色を捉えれば
青々とした葉が黄色に染まり
山の体温が木々に灯っていく
草木たちは時を織り
いよいよ実りを迎えゆく
赤々と夕焼けのように火照る山々は
まるで幼子の紅の頰のような
待ちわびた秋そのものでした。
お着物
今年こそはお着物を着たい。
と、思い続けて早十ヶ月
頑張れて浴衣かな。
と、半ば諦めていた私が
お着物を着る機会に恵まれました。
丁寧に着付けていただきながら
こんなにも何枚も衣を重ね
いつもの動きやすさと比べれば
少々の着苦しさを共にまとう。
それでもお着物を着れている
という高揚感に浮き足立ち
嬉しくて何度も鏡を見る。
絹に描かれた絵画を体に添わせ
立体的にまとうだなんてすごいこと
首元をしめて、襟を抜く
帯合わせに色合わせ
一つ一つの装いに
日本の美意識を垣間見ては
これは底なし沼のようだなあと
惚けてしまった秋のはじまり。
風の中に
仕事終わりに風の中に
微かに金木犀の香りを感じては
周りを見渡しても
その樹のありかはどこにも見えずに
それでも香りは止まることを知らず
夜の静けさに照らされて
甘やかな香りが浮かび上がる
風の中に薫りを見つけることができるのは
花々のからだが溶け込んでいるから
花弁が散るよりも早く
その身を自らほどいているから
朝よりも昼よりも
夜に匂い立つ黄金色の小さな花束
姿は見えずとも私は
風の中に金木犀の姿を見る