“ 暮らし手記 ”essay

お客さまの暮らし手記

posted:2021.02.01

家つくりとパン作りは似ている。
そんなことを、ふと思った。

私は、毎日夢を叶えている。
玄関を開ければ、こぼれるような木々の薫り。
窓から差し込む木漏れ日を感じながら、
ちょうどいい台所に立つ。
そして、私は今日もパンを捏ねる。
せっせと捏ねながら、美味しい。と、
笑う家族の顔を思い浮かべる。
クリーム色の艶やかな生地に、心がほころぶ。
温まったオーブンに、成形したパンを入れた。

我が家は、祖父母の代から元農家だった。
米作りに始まり、野菜やお味噌を作っては、
手作りの楽しさを知った。
母屋の空気と共に刻まれた、手作りの記憶。
そして、五十年の時を経て、母屋を解体し、
まっさらな場所に家を建てた。

私は、美味しい記憶を宿しながら
家と時を重ねていく。
それは、パン作りに似ている。
ゆっくりと少しずつ、私好みの美味しい。
が増えていくように。

敷地内で始めたパン教室も、15年を迎えた。
私の美味しいが育っていく時を、家はずっと
見守るように建っていた。

急がなくていい
焦らなくていい
時間をかけていく楽しさを教えてくれた
私の暮らしを営む場所。

パンが焼きあがる。
焼きたての香りと木々の薫りが重なり合う。
しあわせ。
ぽろりと呟いたら、家がふっと笑った気がした。

文章 松村舞子

静岡市駿河区池田S様邸