“ 暮らし手記 ”essay

皐月の記

posted:2021.05.01


夏の入り口

春をまだかまだかと
待ちわびた季節も通り過ぎ
樹木に白い雪が
降り積もっていると錯覚するような
桜の花は舞い散り
夏を待つ土の中に溶けた頃

ジリジリと鳴くことを待つ蝉たちの養分となるように
命の巡りを色濃く感じる
夏の入り口が開いたように思います。

灯建築舎の入り口にある山紫陽花の花弁がひらきはじめました。
薄紫色と淡い黄緑色がほころぶように咲くその隣には
線香花火のような花々が、可憐にぱっと寄り添います。

目を凝らして見てみると、昨日よりも開いたような
はたまたなぜかとじたような
時の流れを花の移ろいで感じるその一瞬一瞬に
どこか切ないような懐かしいような
不思議な気持ちになるのです。

 


五月九日

母の日でした。
洋服をあげようか、花をあげようか
お酒にしようか、ケーキにしようか。
日常の隙間の中、時折母の顔を思い浮かべながら
私が選んだものは、百合の花の刺繍入りの靴下でした。
今度はもう少し、上等なお洋服を。
と毎度のように思いながら
ラッピングを少しでもかわいくしたい
と、風呂敷で小さく束ねて。
渡して見たら、喜ぶ笑顔と同時に
夏物の靴下、なかったから嬉しいよ。との言葉に
一足分じゃとてもじゃないけれど足りないだろう。
と、新たな靴下を見繕い始めている私です。

 


立夏

立夏がやってきました。
夏が立つと書くと
太陽に向かってすっと立ち上がる
ひまわりの姿を思い出します。

土にぐんぐんと吸い込まれていく
バケツいっぱいの水
立派な太い茎に、悠々とした葉
大きく鮮やかな大輪の花を咲かせては
あふれんばかりの種をのこしていく
それは、夏の風物詩。

ひまわりが咲く時期はまだだいぶ先ですが
きっと土の中種の中
なにかがすくっと立ち上がり始めている
そんな気配を感じます。

 

 


風 羽織る

五月も過ぎ行く今日この頃
ようやく暑さが増してきたかと思えば
冷ややかな風が、首元をするりとすり抜ける

そんな時は、羽織ものを手にし
時に肩にかけ、時にカバンの中へ
肌に射す日の光をさえぎり
きんと冷える冷房をよけて
それは第二の肌のように、わたしの肌温度を調節する

そして、羽織ものの楽しみといえば
なによりもお洋服に重ねること
色を合わせ、丈を合わせ
歩けば、風になびかれて
とても爽やかな気持ちがやってきます。

夏手前の今の時期
羽織ものが頼もしく、心愉しい季節です。