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用宗の家/mochimune House改修
| 静岡市駿河区用宗 | |
| 主要用途: | 専用住宅 |
|---|---|
| 構造規模: | 木造2階建 |
| 竣工: | 2025年9月 |
用宗の街道を少し入ったところに、時間がゆるやかに流れる古い家があります。
初めてその前に立ったとき、胸の奥の呼吸がふっと整うのを感じました。
風が止んだわけではないのに、不思議と静けさに包まれるような佇まいでした。
風雨にさらされてきた外壁や、少し歪んだ木枠。
それらは古びているというより、長い時間を大事に重ねてきた証のようで、そっと触れたくなるやわらかさがありました。
S様ご夫婦もきっと、この家のそんなやさしい気配に惹かれたのだと思います。
土間に入ると、「内」と「外」の境界があいまいで、独特のひんやりとした空気が迎えてくれます。
古い家の土間には、言葉にしにくい“溜まり”のようなものがあって、そこに立つと、知らない誰かの暮らしの影までもそっと寄ってくるように感じられます。
硝子に射し込む光は、ただ明るいだけではありません。
少しくもったガラス越しに見える景色は、輪郭がやわらかく揺れて、絵のように静かです。
均一でない木の格子も、手仕事の跡がそのまま残っていて、どこか懐かしい安堵をくれます。
新しくすることが目的ではなく、この家に宿ってきた気配を、できるだけそのまま残したい――
そんな思いで、私たちは少しずつ手を入れていきました。
新しいものが古いものに寄り添い、気がついたら“もともとそうだった”ような顔で馴染んでいく瞬間があります。
その自然さが、この仕事のいちばん好きなところかもしれません。
完成した家に立つと、静かな呼吸のようなものが感じられました。
S様ご夫婦の暮らしと重なり合いながら、ここにまた新しい日々が積もっていくのだろうと思うと、
未来がそっとあたたかく灯るように感じます。
その始まりの景色を、こうして間近で見届けることができたことを、私たちは静かに嬉しく思っています。